【テキスト版】
おまいりに行くと、お年寄りの方から、今となっては懐かしいこどものころの話を聞くことができます。そんな昔話は、ときに大いに盛り上がります。
Tさんが、こどもの頃、仏さまのお給仕をした思い出を懐かしそうに語られました。
Tさんは、仏様のお給仕のこと・お荘厳のことを『おごっつぉおする』と言われます。丁寧なことば「ごちそうする」に、さらに「お」をつけての訛りです。その『おごっつぉおする』思い出のひとつが、『おなべさま』です。
『おなべさま』ということばをはじめて聞きました。
『おなべさま』とは、お仏飯を炊く専用の鍋のことだそうです。それは、一合ほどのお米を炊くようにできている、つるのついた小さな鍋のことです。昔は、毎朝、薪をたいて「くど」の茶釜でお茶を沸かしました。そのとき、焚き口から漏れる火にかざして、お仏飯を炊きあげるのだそうです。
普段食するのは割れたお米でも、『おなべさま』で炊きあげるお仏飯は選って粒のそろったお米だったそうです。子ども心に、『おなべさま』で炊いたご飯がおいしいことが判っていたと、そして、そのお仏飯を食べるのが楽しみだったと満面の笑顔で話されました。
よく似た話を、前住職からも聞いたことがあります。報恩講の前の晩、こどもの仕事があったそうです。黒いお盆にお米を広げ、報恩講に供えするお仏飯を炊く、割れていないきれいなお米を選るのです。手間をかけることそのものが、お荘厳だったのでしょう。
そういった話が、何十年も経った今、生き生きと語られることの意味を大切にしなければと思います。当たり前のように、人が仏さまといっしょに暮らしていた時代が確かにあったのです。
慈悲をよろこび、ほとけさまを仰ぐ姿が、お念仏を伝えて来たのだと思います。
音声・テキストは、
正尊寺HP・テレホン法話をご覧ください。
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『西蔵坊だより』は、 森鏡山 正蓮寺の住職の日記です。
仏教のこと、山や川や海のこと、TIBETのこと等、思いつくまま書いています。
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